Electrofringe 2010
はじめに
roomoot(ルームー)は、2010年10月にインスタレーション“Haptic Nature”を、メディア・アートのフェスティバルである Electrofring (オーストラリア、ニューキャッスル)に出展した。 Electrofringe の知名度は日本でまだまだ低いため、フェスティバルの背景や実際の内容、出展の様子を詳しくまとめる。
Electrofringe とは

Electrofringe は、オーストラリアの南東部、ニュー・サウス・ウェールズ州ニューキャッスル市で毎年10月初めに行われているメディア・アートのフェスティバルである。 Electrofringe は短命だった別のフェスティバル “Newcastle Fringe Festival” (1996–1998)の一部門として1998年に始まった。翌1999年に独立したフェスティバルとなり、その後、2000年から始まった合同アート・フェスティバル“This is Not Art”の傘下に入った。 Electrofringe は2007年で開催10周年を迎え、小規模なフェスティバルながら、比較的長い歴史を持っている。
Electrofringe は、 Ars Electronica (オーストリア、リンツ)や SIGGRAPH のカンファレンスと併催の Emerging Technologies (E-Tech)などに比べると、かなり規模は小さいものの、学生やアーティストによる自主運営や、参加者がイベントを作り上げるDIY精神が特長となっている。
他に、オーストラリアのメディア・アート・シーンでよく知られているのは、1986年に創設され、ビエンナーレなどの様々なプロジェクトを行っている Experimenta である。また、メルボルンでは、小規模なメディア・アート・フェスティバルとして Digital Fringe が開催されている。
応募から現地入りまで
Electrofringe 2010 の応募締切は開催の約半年前の3月末日だった。 Electrofringe が受け入れているのは、数日間ギャラリーに設置する“展示・インスタレーション” ばかりではなく、アート活動やアート・プロジェクトに関して1時間ほど発表する“プレゼンテーション”、電子音楽やメディアアートに関する技術を伝える“ワークショップ”、パフォーマンスの記録映像や映像作品を上映する“スクリーン上映”など幅広い。応募に必要なのは、必要な情報をふくむ企画書、出展内容がわかる画像、ポートレート画像である。 roomoot では、出展内容が体験型のインスタレーションだったので、応募資料としてムービーも添付し、ギャラリーを使うインスタレーションを希望した。
審査結果通知が5月末頃に電子メールで届いた。以後、 Electrofringe のディレクターと、契約や設営の段取りについて直接やりとりすることになる。出展アーティストには謝礼が支払われ、また、期間中に宿泊するホテルが用意された。ただし、交通費のサポートはなかった。 Electrofringe 2010 では artist fee はおよそ600豪ドルで、用意されたホテルはギャラリーに近い広くてきれいな Serviced Apartment (ホテルに近いサービスがついた家具付きの高級アパートメント)だった。
ニューキャッスルは、ジンジャービール、製鉄所、サーフィンが名物(?)の地方都市で、シドニーから電車で3時間ほどかかる。親切な人が多い町だった。
TAFE Front Room Gallery
インスタレーションの会場は TAFE Front Room Gallery というギャラリーで、毎年使われているようだ。これは、オーストラリアの TAFE(公立の専門学校)のひとつ、 TAFE NSW Hunter Institute が管理する Newcastle Art School の施設である。Art School の歴史的な建物と比べて、簡素な外観をしている。今回、 Front Room Gallery での展示期間は10月1日から3日までの3日間、設営は展示期間初日の前日の1日間、撤収は展示期間最終日の翌日の1日間だった。

Front Room Gallery の内部は受付のあるロビー、その奥のAVギャラリー、広いメインギャラリーに分かれている。メインギャラリーの天井高さは3~4mで、梁がある。また、細かいコントロールはできないが、蛍光灯のほか、ライト用のレールが5~6本ある。壁の一面がガラス窓になっているが、黒いビニルシートを貼ってもらって遮光が可能だった。また、キャスター付きの大きなパーティションが2~3枚使える。

現地に着くまでギャラリーの広さや雰囲気が全く分からず、Web上を探してもほとんど情報がなかった。実際のギャラリーの間取りは、大まかに下の図のようになっている。メインギャラリーの2/3を使って、5m×6m程度の広さを確保できた。 Electrofringe 2010 ではロビー奥のAVギャラリーに1点、メインギャラリーに2点、合計3点のインスタレーションが割り当てられていた。

“Haptic Nature”展示の様子
roomoot は、人と人の触れ合い、そしてその意味を題材にしたインスタレーション“Haptic Nature(ハプティック・ネイチャー)”を出展した。人体の接触を扱うために、人との接触が身体表面のどの場所で起きても電気的に検出することが可能な、独自の技術を利用している。

他人に触れる・他人から触れられるということは、日常生活のさまざまな場面で起こる。例えば、友達・恋人同士のハグや挨拶での握手など、親しさの表れとして触れ合いがある一方で、人ごみの中での衝突や、暴力の中でも、接触は起こる。Haptic Nature では、そのような触れることの多面性を、テクノロジーを援用して表現することを試みた。
来場者は、明滅するペンダントを胸にかけ、接触を検知するための小型デバイスを携帯して、二人で暗い空間に入る。視覚情報が制限された状態で、互いのペンダントの弱い光を頼りに、手探りで動くことになる。空間中は雨の音とゆっくりした鼓動の音が流れており、心細い雰囲気になっている。

近づき、触れ合うと、雨音は消えのどかな鳥のさえずりが聞こえる。触れ合いは、安心・安堵と結びついている。握手をしても、肩を合わせても、抱き合っても、どこかが触れ合えば同じように鳥のさえずりが聞こえる。

さらに、しばらくこの空間にとどまっていると、雨音が強くなり、胸のペンダントが緊張した鼓動のようにあわただしく明滅する。そのような不穏な雰囲気の中で接触が起こると、今度は大きな雷鳴が起こり、閃光が走る。同じ触れるという行為が、人をおびやかすものに変化する。

来場者の反応は様々だった。つないだ手をずっと離さずにいる人、どうやって触れ合いを検出しているのか不思議がる人、手を取り合って踊る人もいた。雷鳴と閃光の起こる嵐の場面ではけんかのまねをする人がいる一方で、逆に大げさな雷の音に喜ぶ人もいた。1日あたりの来場者数は100人に満たないくらいの少なさだったが、じっくり体験してもらえたと思う。
そのほかの展示やパフォーマンス
Electrofringe は単独で開催されているのではなく、 The National Young Writers' Festival 、 Sound Summit 、 Critical Animals といったフェスティバル/カンファレンスと共同で This is Not Art という大きなフェスティバルを構成している。そのため、期間中には市内およそ30の会場で、多様なテーマでたくさんのイベントが行われていた。日中のイベントでは、ギャラリーでのエキシビションやインスタレーション、市庁舎やスタジオなどでのワークショップやプレゼンテーション、劇場でのスクリーン上映などがあった。文化庁メディア芸術祭の受賞作品の映像による紹介も行われていた。夜はホテルやライブハウスなどでライブ演奏・パフォーマンス・DJ・演劇・詩の朗読などのイベントがあった。

おわりに
Electrofringe では、アーティストがオーガナイズし、地域に根差したアートの受容の形を見ることができた。また、オーストラリアの風土や文化の文脈の中で、メディア・アートの今後の方向性について考えるよい機会だった。
オーストラリアにおけるアートのひとつの方向は、バイオテクノロジーとアートの境界、バイオ・アート( Biological Art )、バイオ・メディア・アート( Bio Media Art )と呼ばれる領域である。University of Western Australia (西オーストラリア大学)には、2000年に設立されたバイオロジカル・アートの専門組織 SymboticA があり、 Ars Electronica 2007 で Golden Nica を受賞している。アーティストでは、 Ars Electronica 2010 で Golden Nica を受賞した Stelarc (ステラーク)や、組織培養や細胞工学に基づいた制作を行っている SymbioticA のディレクター Oron Catts(オロン・カッツ)らが知られている。また、メディア・アートの創成期から活躍する Jefferey Shaw (ジェフリー・ショー)もオーストラリアのアーティストである。さらに、現代アート・シーンでは、例えば Ron Mueck (ロン・ミュエク)、 Patricia Piccinini (パトリシア・ピッチニーニ)、 Shaun Gladwell (ショーン・グラッドウェル)らがいる。
日本を拠点とした制作では、国内での展示や、ヨーロッパ、北アメリカの大規模なイベントに目を向けがちである。しかし、オーストラリア、アジア諸国、南アメリカなどでのメディア・アート展示で得られるものもまた大きいと思われる。(roomoot、2010年11月)